手の鳴る方に手を振って




 それはかの競技会ではないし、そこは湿度から考えてもかの国の小さな島ではない。「犬は吠えるがキャラバンは進む」? そう、僕たちも何処へでも行けるし、そこではなくともいいはずだから。



「それにしてもぼくたちは先へ進まなけりゃならなかった! (中略) ぼくたちはそこからまっさかさまに落っこた…… (中略) トムはぼくたちの先に立って吠えながら小走りに走っていたが、その吠え声はちっとも聞こえなかった……」


L=F・セリーヌ著、高坂和彦訳/『セリーヌの作品 第二巻 「なしくずしの死 上」』/p.88/国書刊行会/1978年